燃焼を用いた小型高密度電源の開発

内田 晋太郎,李 敏赫, 鈴木 雄二

概要

 現在,携帯電子機器,小型福祉機器,人工臓器などへの応用を目指して,超小型エネルギー源が注目されている.特に,化学燃料のエネルギー密度が高 性能2次電池よりも2桁程度大きいことから,携帯機器の内部で化学エネルギーを動力あるいは電力に変換する方法が有望である. 本研究では,燃料電池と比較して,動作温度条件の制約が小さく,燃料の種類を選ばない,燃焼ベースの小型高密度発電システムの開発を目指している.
 これまでに,半導体パッケージに用いられる積層セラミック技術を用いてマイクロ触媒燃焼器を試作し,流路幅300μm程度の燃焼チャンバ内で単位体積当た り数100MW/m^3 の高い燃焼密度を得ている.また,コールドスプレーで積層したアルミ層の陽極酸化によりナノポーラスアルミナ触媒担体を形成し,パラジウムを担持した触媒 層が極めて良い特性を有することを示した.さらに,直径40μm程度のマイクロ超音速ノズルを用いたマイクロイジェクタの性能評価を行い, 完全燃焼に十分な空気量を供給できる可能性を示した.また表面反応モデルを組み込んだCFDを用いて,表面温度の均一性を高める触媒燃焼器の設 計を行い,試作燃焼器により,800℃程度の表面温度と,10^8 W/m^3オーダーの極めて高い発熱密度を実現した.

積層セラミック技術を用いたマイクロ触媒燃焼器 (Kamijo et al., 2009)

 このマイクロ触媒燃焼器を用いて,DMFCよりも単位面積当たりの発電量が1桁程度大きい,可動部分が少ない,補機のほとんど不要である,などの特長を有する,マイクロ熱光発 電(TPV)システムの開発を行った.燃焼器の温度はせいぜい1000℃以下と低いため,放射光のスペクトルは赤外域にピークを持つ.この放射光をそのまま用いると,低バンドギャップの光電セルを用いても変換効率が低く,放射スペクトルの波長を制御することが必要となる.本研究では,波長制御のためのシリコン・マイクロキャビティの試作とその評価を行った.電子 ビームリソグラフィで形成した,1.8umのマイクロキャビティ群に50nm厚のチタン金属膜を真空アークプラズマガンにより蒸着した.電磁波共鳴モード に相当する波長3.2umに放射ピークが観察され,放射制御の効果が確認された.Geセル(バンドギャップ相当波長2um)を用いて発電実験を行い,放射面温度915℃において,3.4%の変換効率が得られることを示し,黒体面を用いた場合の1.7%に比べて顕著な改善が得られることを明らかにした.また,放射面温度1200℃の場合,変換効率は7.4%となることをモデル計算により示した.

輻射スペクトル制御のための金属被膜Siキャビティ群 (Kirikae et al., 2010)

 現在,熱電素子と組み合わせた,新しい携帯の高密度電源の検討を進めている.対流効果を用いることによって,機械的信頼性の高い熱電材料でも等価的ZT値を向上させることが可能であり,ドローンやロボット向けの小型高出力電源を目指して,検討を進めている.

プロジェクト: NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム/ドローン運用尾高度化のための革新的熱電発電システムの開発」[2018-2019年度, 研究代表者:鈴木 雄二] ,および民間企業との共同研究

主たる共同研究者:
 山本 淳(産業技術総合研究所)
 范 勇(産業技術総合研究所)

最近の発表論文

対流効果を用いた燃焼ベース熱電発電デバイスの開発

  • 彭 俊傑, 李 敏赫,范 勇, 山本 淳, 鈴木 雄二, “対流効果を用いた燃焼ベース熱電発電デバイスの高効率化,” 日本機械学会熱工学コンファレンス2018, 富山, 2018年10月20日-10月21日, D123.

高性能陽極酸化アルミナ触媒担体&マイクロ触媒燃焼器

  • Sakata, K., Tagomori, K., Sugiyama, N., Takenouchi, M., Shinya, Y., Morimoto K., and Suzuki, Y.,
    “Development of Nanoporous Aumina Catalyst Support by Anodic Oxidation of Thermally and Kinetically Sprayed Aluminum Coatings,”
    J. Therm. Spray Tech., Vol. 22, Issue 2-3, pp. 138-144 (2013).
    (doi:10.1007/s11666-012-9859-6)
  • Kamijo, T., Suzuki, Y., Kasagi, N., and Okamasa, T.,
    "High-temperature Micro Catalytic Combustor with Pd/Nano-porous Alumina,"
    Proc. Comb. Inst., Vol. 32, Issue 2, pp. 3019-3026 (2009).
    (doi: 10.1016/j.proci.2008.06.118)
  • Okamasa, T., Lee, G.-G., Suzuki, Y., Kasagi, N., and Matsuda, S.,
    "Micro Catalytic Combustor Using High-Precision Ceramic Tape Casting,"
    J. Micromech. Microeng., Vol. 16, No. 9, S198-S205 (2006).
    (doi:10.1088/0960-1317/16/9/S05 )
  • Suzuki, Y., Saito, J., and Kasagi, N.,
    "Development of Micro Catalytic Combustor with Pt/Al2O3 Thin Films,"
    JSME Int. J., Vol. 47, No. 3, Ser. B, pp. 522-527 (2004).
    (doi:10.1299/jsmeb.47.522)

Siキャビティを用いた選択的放射体と熱光発電への応用

  • 鈴木 雄二,
    「シリコン選択的放射体を用いたマイクロ熱光発電システムの開発」,
    伝熱, Vol. 50, No. 210, pp. 18-24 (2011).
    (日本伝熱学会)
  • Kirikae, D., Suzuki, Y., and Kasagi, N.,
    “Silicon Microcavity Selective Emitter with Smooth Surface for Thermophotovoltaic,”
    J. Micromech. Microeng., Vol. 20, Issue. 10, No. 104006, 7pp, (2010).
    (doi:10.1088/0960-1317/20/10/104006)

マイクロイジェクタ

  • Sakata, K., Tagomori, K., Sugiyama, N., Takenouchi, M., Shinya, Y., Morimoto K., and Suzuki, Y.,
    “Development of Nanoporous Aumina Catalyst Support by Anodic Oxidation of Thermally and Kinetically Sprayed Aluminum Coatings,”
    J. Therm. Spray Tech., Vol. 22, Issue 2-3, pp. 138-144 (2013).
    (doi:10.1007/s11666-012-9859-6)
  • Fan, Y., Suzuki, Y., and Kasagi, N.,
    "Development of Large-Entrainment-Ratio Supersonic Ejector for Micro Butane Combustor,"
    J. Micromech. Microeng., Vol. 16, No. 9, S211-S219 (2006).
    (doi:10.1088/0960-1317/16/9/S07 )

最終更新: 2019-03-31