バイナリー発電のための低環境負荷作動流体の開発と高性能伝熱面を持つ熱交換器の提案
森本 賢一, 鈴木 雄二
概要
我が国は地熱エネルギーが豊富であり,太陽光発電や風力発電のように天候に左右されないことから,稼働率が極めて高く,また発電原価の低いことから,再生可能エネルギーとして再び注目を浴びてきている.全国各地に分布する地熱源の中で,温泉など比較的低温(120℃以下)のものは熱源として比較的容易に利用することが可能であり,その有効利用のために低沸点有機溶媒を作動流体として用いた小型のランキンサイクル,すなわちバイナリー発電システムが用いられ始めてきている.
バイナリー発電の原理
従来,バイナリー発電にはいくつかの低沸点流体が用いられているが,炭化水素系(n-ペンタン)は可燃性があり,アンモニアは毒性があるため,宿泊施設などの集客施設や居住地域には不向きである.現在小型バイナリー発電システムに用いられているHFC-245faは,オゾン破壊係数(ODP)がゼロであり,毒性も低いが,地球温暖化係数(GWP) 1030と非常に高い.一方,AE3000(旭硝子社製HFE-347pc-f)は,常温で液体であり取り扱いが容易であるという利点はあるが,GWPが580と依然として高く,じょ限量(許容濃度)が50ppmと低い.また,これまで,環境負荷(ODP,GWP),安全性(じょ限量,不燃性)といった観点から作動流体が提案されてきているが,バイナリー発電システムの体積の多くの割合を占める熱交換器を小型化するためには,伝熱特性をも考慮した作動流体の開発が必要である.
そこで,本研究では,バイナリー発電・テストベンチを用いた発電性能・熱交換器性能の評価実験、詳細な伝熱特性評価のための単管流路実験、燃焼性評価実験、熱交換器内の2相流熱流体数値シミュレーション、および高性能熱交換器の試作評価を行い、低沸点作動流体の熱流動特性がバイナリー発電システム、熱交換性能に及ぼす影響を多角的に調査している。
まず,実際にバイナリー発電システムで用いる流路の等価直径を考慮し,単管(内径4mm)内における垂直上昇流の沸騰熱伝達率の計測を行った.流体としては,R245fa,R1233zd(E),R1224yd(Z),HFE-347pc-f,HFE-347mccなどを用いた.3kWのバイナリー発電システムでは,質量流束30 kg/(m^2s)、熱流束10 kW/m^2 と見積もられ,従来データのあまり存在しない低質量流束,低熱流束である.このような条件では,核沸騰支配であり,強制対流効果は小さく,局所熱伝達率は質量流束には依存せず,熱流束に依存することが確認された.平均熱伝達率を下図に示す.ドライアウト部分を含まない平均熱伝達率は,還元圧力に強く依存することが明らかになった.一方,ドライアウトが平均熱伝達に与える影響は大きく,表面張力や粘性力などの物性値がドライアウト点に与える影響をモデル化する必要があると考えられる.
単管内垂直上昇流の沸騰熱伝達計測系
ドライアウト部分を含む場合と含まない場合の平均熱伝達率
本研究では,スクロールタービンおよび新たに試作した斜め波状壁熱交換器(伝熱面積2.8 m^2)を組み込んだバイナリー発電システムを構築し、種々の低沸点流体に対して発電特性,蒸発器における平均熱伝達率を評価した。その結果,R245faと比べて,R1233zd(E)は発電量がやや小さく,R1224yd(Z)はほぼ同等の発電量が得られることが示された.また,斜め波状壁熱交換器を用いることによって,オフセットフィン型熱交換器に比べて発電量が14%向上し,温水入口温度85℃,冷水入口温度13℃に対して,最大約1.3kWの発電出力が得られた.
また,蒸発器入口,出口をそれぞれ液,蒸気の飽和状態として保った場合の,平均熱伝達率を計測したところ,オフセットフィン型熱交換器では単管の場合と同様に,強制対流の効果があまり見られなかったのに対し,斜め波状壁熱交換器では強制対流効果が顕著に現れることが示された.また,平均熱伝達率についても,オフセットフィン型熱交換器の2倍程度の値が得られた.さらに,R1224yd(Z)が,R245faに比べて平均熱伝達率が高いことが明らかになった.
3 kWバイナリー発電テストベンチ
斜め波状壁熱交換器のプロトタイプ
斜め波状壁熱交換器における気液2相流熱流動 (Noguchi et al., 2016)
共同研究先: 旭硝子株式会社商品開発研究所
プロジェクト: NEDO地熱発電技術研究開発 [研究代表者:鈴木 雄二]
最近の発表論文
3kW級バイナリー発電システムの試作
- 松下 涼, 范 勇, 森本 賢一, 鈴木 雄二,
“小型バイナリー発電システム用コンパクト熱交換器における低質量流束沸騰熱伝達,”
日本機械学会熱工学コンファレンス2018, 富山, 2018年10月20日-10月21日, J134. - 松下 涼,伊吹 勇樹,范 勇, 森本 賢一, 鈴木 雄二,
「小型バイナリー発電システムにおける低沸点流体の沸騰伝熱特性」
第54回日本伝熱シンポジウム, 札幌, 2018年5月29日-5月31日, D211. - Matsushita, R., Fan, Y., Morimoto, K., and Suzuki, Y.,
“Heat Transfer Performance of Low-GWP Refrigerants in a Small-Scale Binary-Cycle System,”
9th JSME-KSME Thermal Fluid Eng. Conf. (TFEC9), Okinawa, TFEC9-1513 (2017) - 松下 涼, 范 勇,鈴木 雄二, 森本 賢一
「低GWP冷媒を用いた小型バイナリーシステムの試作」
第53回日本伝熱シンポジウム, 大宮, 2017年5月24日-5月26日, B325.
二相流熱交換器の形状最適設計
- Morimoto, K., Kinoshita, H., Matsushita, R., and Suzuki, Y.,
"Slug-flow dynamics with phase change heat transfer in compact heat exchangers with oblique wavy walls,"
70th Annual Meeting of the APS Division of Fluid Dynamics, BAPS.2017.DFD.L2.11 (2017). - Noguchi, Y., Morimoto, K., and Suzuki, Y.,
"Two-Phase Flow and Heat Transfer in Compact Heat Exchanger with Oblique Wavy Walls,"
Proc. 1st Pacific Rim Therm. Eng. Conf., PRTEC-15159 (2016).
低GWP作動流体の沸騰熱伝達率特性の評価
- Zhao, A., Peng, J., Fan, Y., Suzuki, Y., and Morimoto, K.,
「Boiling Heat Transfer and Dryout Characteristics of Low Boiling Point Fluids for Binary-cycle System」
第54回日本伝熱シンポジウム, 札幌, 2018年5月29日-5月31日, G215. - Zhao, A., Peng, J., Fan, Y., Morimoto, K., and Suzuki, Y., "Boiling heat transfer characteristics of low GWP working fluids at low mass and heat fluxes," 10th Int. Conf. Boiling and Condensation Heat Transfer (ICBCHT), Nagasaki, B1126 (2018).
低GWP作動流体の燃焼性の評価
- Fan, Y., Morimoto, K., and Suzuki, Y.,
“Combustion Characteristics of Mildly Flammable R1234yf in Micro Flow Reactor under Elevated Pressures”
37th Int. Symp. Combustion (Combustion 2018), WiPP, Dublin, (2018), 4P156. - 盧 正煥,范 勇,鈴木 雄二
「マイクロフローリアクタを用いた低燃焼性流体の反応性評価」
第53回日本伝熱シンポジウム, 大宮, 2017年5月24日-5月26日, A232.
最終更新: 2019-04-01