金属燃焼を用いた新しいメタネーション技術の開発
相変化と化学反応を同時に伴う金属燃焼現象のモデリング
概要
アルミニウム,亜鉛,マグネシウム,鉄といった金属は,従来の炭化水素燃料と同等以上の高い体積エネルギー密度を持ち,燃焼(酸化)過程においてCO2を排出せず,生成物の回収が容易でかつ余剰電力を用いた還元プロセスにより再利用が可能であるなどの特徴から,次世代のエネルギーキャリアとして注目されています.本研究室では,金属の高い還元性に着目し,回収CO2およびH2O(水蒸気)を酸化剤として金属を燃焼させることにより,メタン合成反応のシードガスとなるCOとH2を同時に取り出す新しいメタネーションのコンセプトを提案しました.一方,火星の大気は95%以上がCO2で構成されており,酸化マグネシウム,酸化鉄,酸化アルミニウムが,地殻の半分程度を構成しています.したがって,電力による金属酸化物の還元プロセスと結合させることにより,金属燃料を宇宙開発におけるエネルギー源もしくは推進剤として応用することも期待できます.
CO2有効利用(Carbon dioxide Capture and Utilization; CCU)技術およびエネルギーキャリアとして金属燃焼の適用可能性を検討するためには,金属の燃焼特性の解明が不可欠です.しかし,金属の燃焼は,固体周り・内部における伝熱,相変化,気相・表面反応などの複雑な物理・化学現象を同時に伴うため,厳密に規定された境界条件下での実験のみならず数値的な模擬が難しく,燃焼メカニズムの完全な解明に至っていません.また,燃焼の初期段階における自然酸化膜の影響や,金属表面酸化皮膜の形成による干渉についてあまり検討が進んでおらず,空気(酸素)以外の酸化雰囲気中においての燃焼反応についてはとりわけ知見が乏しい状況です.そこで,本研究では,空間的に固定された金属の着火・燃焼を可能とする実験系を構築し,高度な光学計測によりその燃焼過程を調べるとともに,数値解析の援用により,金属の燃焼特性の解明を行います.これによって,金属燃焼を応用したCO2有効利用を実現するための基盤技術を蓄積するとともに,次世代エネルギーキャリアとして利用するための知見を得ることを目的とします.
図1. 金属をキャリアとするエネルギー循環およびCCUのコンセプト.
図2. 金属ワイヤ燃焼試験装置.
図3. 空気雰囲気における直径0.2 mmアルミニウムワイヤの燃焼様子.
図4. 酸素・CO2,雰囲気で燃焼する直径0.2 mmアルミニウム粒子近傍におけるAlOラジカル分布の数値解析結果.
プロジェクト:
NEDO官民による若手研究者発掘支援事業「二酸化炭素の有効利用による持続可能なメタネーションを目指した金属粉末燃焼技術の開発」[2022-2023年度, 研究代表者:李 敏赫]
主たる共同研究者:
田部 豊(北海道大学)
金 佑勁(広島大学)
最近の発表論文
- Ueno, Y., Saeki, R., Johzaki, T., Endo, T., Lee, M., and Kim, W.
“Effect of oxygen concentration on the minimum explosible concentration of aluminum powders,”
Asia Pacific Symposium on Safety 2023 (APSS 2023), Bangkok, Thailand, Oct. 17-20, (2023). (submitted) - Adachi, K., Ueno, Y., Saeki, R., Johzaki, T., Endo, T., Lee, M., and Kim, W.
“Minimum explosible concentration of aluminum-oxygen-carbon dioxide mixtures ,”
Asia Pacific Symposium on Safety 2023 (APSS 2023), Bangkok, Thailand, Oct. 17-20, (2023). (submitted) - 李 敏赫, 上薗 開人, 鈴木 雄二,
“異なる酸化雰囲気におけるアルミニウムワイヤの燃焼過程に関する研究,”
第60回日本伝熱シンポジウム, 福岡, 2023年5月25日-27日, F131.
- Lee, M., Saeki, R., and Kim, W.,
“Numerical Study of Hydrogen Addition Effects on Aluminum Particle Combustion,”
J. Energy Inst., Vol. 105, (2022), pp.72-80.
(doi: 10.1016/j.joei.2022.07.009) - 上野 寧子, 佐伯 琳々, 城﨑 知至, 遠藤 琢磨, 金 佑勁, 李 敏赫,
“アルミニウム粉塵爆発に及ぼす酸素濃度の影響,”
2022年度日本火災学会研究発表会, オンライン開催, 2022年5月28日-29日, B-03. - Kim, W., Saeki, R., Dobashi, R., Endo, T., Kuwana, K., Mogi, T., Lee, M., Mikami, M., Nakamura, Y.,
“Research on Risk of Dust Explosions in Microgravity for Lunar and Planetary Exploration,”
Int. J. Microgravity Sci. Appl., Vol. 38, No. 2, (2021), 380204.
(doi: 10.15011/jasma.38.380204)
最終更新: 2023-10-01